ポルトガル世界遺産リスト
WORLD HERITAGE
ポルトガルにはユネスコ世界遺産が17件(文化遺産16件・自然遺産1件)登録されており、ヨーロッパの中でも豊かな歴史と文化を誇る国のひとつです。大航海時代の栄光を伝える建造物から、中世の町並み、壮麗な修道院に至るまで、ポルトガル旅行では必ず訪れたいスポットが揃っています。

アゾレス諸島の町の中心地区 (1983年)
アングラ・ド・エロイズモ(Angra do Heroísmo)は、ポルトガル領アゾレス諸島のテルセイラ島南西部に位置する歴史的な港町であり、ヨーロッパと新大陸を結ぶ大西洋横断航路の中継地として、15世紀末以降に重要な役割を果たしてきた。テルセイラ島はアゾレス諸島の中で3番目に大きな島であり、その中でもアングラ・ド・エロイズモは最古の都市であり、かつては群島全体の行政・宗教・軍事の中心地として機能していた。この町は、航海時代におけるポルトガルの世界展開にとって戦略的に不可欠な場所であり、インドやアフリカ、ブラジルなどからの船が物資や人員の補給のために立ち寄る港として繁栄した。

リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔 (1983年)
リスボンのベレン地区にあるジェロニモス修道院とベレンの塔は、大航海時代の栄光と富を今に伝えるマヌエル様式建築の代表作である。ジェロニモス修道院は1502年にマヌエル1世の命で建設が始まり、香辛料貿易の利益で支えられた。内部には、航海者ヴァスコ・ダ・ガマと詩人カモンイスの棺が安置されている。2007年にはEUのリスボン条約調印式も行われた。ベレンの塔は16世紀にテージョ川の防衛拠点として築かれ、「テージョ川の公女」とも呼ばれる優美な姿が特徴で、リスボンを象徴する景観の一つとなっている。

バターリャ修道院 (1983年)
バターリャ修道院(正式名称:聖母マリア修道院/Mosteiro de Santa Maria da Vitória)は、ポルトガル中部レイリア地方のバターリャにある、ドミニコ会の修道院である。1385年、アルジュバロータの戦いにおいてカスティーリャ軍に勝利したポルトガル王ジョアン1世が、その勝利を聖母マリアに捧げるため、1386年に建設を命じた。約150年にわたり建設が続けられ、複数の建築様式が取り入れられたが、とくに後期ゴシック様式とポルトガル独自のマヌエル様式の融合が際立っている。王族の霊廟でもあり、アヴィス王朝の王たちの棺が安置されている点でも歴史的価値が高い。

トマールのキリスト教修道院 (1983年)
トマールのキリスト教修道院(Convento de Cristo em Tomar)は、ロマネスク、ゴシック、マヌエル、ルネサンスなど複数の建築様式が融合した、ポルトガルを代表する歴史的建造物である。1160年にテンプル騎士団が建設を開始し、当時成立したばかりのポルトガル王国をムーア人の侵攻から守る要塞として機能した。14世紀、騎士団がローマ教皇の命で解散された後も、ポルトガルではキリスト騎士団として存続し、大航海時代には探検航海を支援するなど、海上帝国の形成に貢献した。修道院には各時代の様式が見事に融合し、芸術的・歴史的価値の高い建築群となっている。

エヴォラ歴史地区 (1986年)
エヴォラ(Évora)は、リスボンの東約130kmに位置するアレンテージョ地方の中心都市で、ローマ時代の城壁に囲まれた人口約5万5千人の歴史都市である。古代ローマ帝国時代より地域の中心地として栄え、ルネサンス期には大学が設立され学芸都市としても知られた。1584年9月には天正遣欧少年使節がリスボンの次に訪問した地でもある。主要な構成資産には、ローマ神殿(ディアナ神殿)、エヴォラ大聖堂、サンフランシスコ教会、エヴォラ大学、アグア・デ・ラプラタ送水路、ジラルド広場、ザンブジェイロ巨石遺跡など多くの文化遺産が含まれている。

アルコバッサ修道院 (1989年)
アルコバッサ修道院(Mosteiro de Santa Maria de Alcobaça)は、ポルトガル中部のアルコバサにあるシトー会の修道院で、ポルトガル初代国王アフォンソ1世の所願により1178年に建設が始められた。フランスのシトー派の影響を受け、無駄な装飾を避けた禁欲的で質素なゴシック建築が特徴であり、内部には厳粛な雰囲気が漂う。この修道院は、宗教的だけでなく芸術的にも高く評価されている。とりわけ南の翼廊には、ペドロ1世とその愛妾イネス・デ・カストロの石棺が向かい合って安置されており、ポルトガル文学にも詠われた悲恋の象徴として多くの訪問者の心を打つ。

シントラの文化的景観 (1995年)
シントラ(Sintra)は、ポルトガルの首都リスボンに隣接する山あいの町で、豊かな自然と歴史的建造物が調和した文化都市である。人口は約36万人。かつて王室の夏の離宮が置かれ、イギリスの詩人バイロンに「この世のエデン」と称えられたその風景は、多くの文人や芸術家を魅了してきた。またシントラは、ユーラシア大陸最西端に位置するロカ岬への観光拠点としても知られる。「シントラの文化的景観」として知られる主な構成資産には、中世以来のシントラ宮殿、ロマン主義建築の傑作ペーナ宮殿、ムーアの城跡、幻想的なレガレイラ宮殿などがある。

ポルト歴史地区、ルイス1世橋およびセラ・ド・ピラール修道院 (1989年)
ポルト(Porto)はポルトガル北部に位置する港湾都市で、人口は約26万人、都市圏全体では約160万人を擁し、リスボンに次ぐ国内第2の都市である。街の起源は5世紀以前にさかのぼり、長い歴史と豊かな文化を誇る。ドウロ川の北岸に広がる旧市街は石畳の坂道や歴史的建築が連なる。「ポルト歴史地区、ルイス1世橋およびセラ・ド・ピラール修道院」として世界遺産に登録されており、構成資産にはクレリゴス教会、ポルト大聖堂、ポルサ宮、聖フランシスコ聖堂などが含まれる。

コア渓谷とシエガ・ベルデの先史時代の岩絵遺跡群 (1998年)
コア渓谷の先史時代の岩絵遺跡群は、ポルトガル北東部、ドウロ川支流のコア川流域に位置する。ここには、およそ1万〜2万年前の旧石器時代に描かれた線刻の動物や人物、幾何学模様など、数千に及ぶ岩絵が確認されている。1980年代後半に発見されたこの遺跡群は、ポルトガル国内で発見された野外型の旧石器時代岩絵としては最大規模を誇る。遺跡は複数のエリアに分かれており、保存の観点から見学には事前予約とガイドの同行が必要となっている。

マデイラ島の照葉樹林 (1999年)
マデイラ島の照葉樹林とは、ヨーロッパでも屈指のリゾートアイランドとして知られるポルトガル領マデイラ諸島の主島、マデイラ島(奄美大島とほぼ同じ大きさ)に分布する原生的な照葉樹林を指す。クリスティアーノ・ロナウドの出身地であり、マデイラワインの産地としても知られる。ヨーロッパ大陸が氷河期によって植生を失ったのに対し、マデイラ島はその影響を免れ、氷河期以前の典型的な植生分布を今に伝える貴重な自然遺産である。

アルト・ドウロ・ワイン生産地域 (2001年)
アルト・ドウロ・ワイン生産地域は、ポルトガル北部、ドウロ川上流域に広がる世界でも有数のワイン産地である。自然環境を巧みに活用し、川沿いの急斜面に設けられた段々畑でブドウが栽培されているのが大きな特徴である。この地域でのワイン造りの起源は、ローマ帝国時代の3世紀〜4世紀頃にさかのぼるとされ、長い歴史の中で発展してきた。栽培されるブドウは、世界的に名高いポート・ワインの原料となり、地域の経済と文化を支えてきた。石を積み上げて築かれた畑の棚田、白い村々、歴史あるワイナリーの景観が調和し、伝統と人々の営みが融合した独特の文化的風景を今に伝えている。

ギマランイス歴史地区 (2001年)
ギマランイス(Guimarães)は、ポルトガル北西部に位置する人口約16万人の都市で、中世の街並みが今なお色濃く残る歴史的な町である。ポルトガル初代国王アフォンソ1世がこの地で誕生したことから、「ポルトガル発祥の地」と称されている。また、2012年には欧州文化首都の一つにも選ばれた。「ギマランイス歴史地区」の構成資産には、ギマランイス城、サン・ミゲル教会、ブラガンサ公爵館、ノッサ・セニョーラ・ダ・オリヴェイラ教会、アルベルト・サンパイオ美術館などがある。

ピコ島のブドウ畑の景観 (2004年)
ピコ島は、ポルトガル領アゾレス諸島で2番目に大きな島で、ポルトガル最高峰のピコ山(2351メートル)がそびえています。火山性の地形と独特の気候を活かし、古くからブドウ栽培が行われてきました。黒い火山岩を積んだ石垣が畑を囲み、潮風や塩分からブドウを守っています。この景観は、人と自然が共に築いた貴重な文化的風景とされています。島で造られるワイン「ヴィーニョ・ド・ピコ」は、個性的な風味と高い品質で知られています。「Photo by Ulrich Thumult」

国境防衛都市エルヴァスとその要塞群 (2012年)
国境防衛都市エルヴァスとその要塞群(Cidade-Quartel Fronteiriça de Elvas e as suas Fortificações)は、ポルトガル南東部の都市エルヴァスに位置し、歴史地区と周辺の要塞建築を含む文化的景観である。エルヴァスはスペインとの国境に近く、17世紀以降、戦略的拠点として要塞化が進んだ。星型要塞をはじめ、塁壁、地下通路、兵舎、貯水施設などが整備され、当時の軍事建築の粋を今に伝えている。これらの構造物は、ヨーロッパの軍事技術と国際情勢の関係を示す貴重な歴史的遺産である。

コインブラ大学-アルタとソフィア (2014年)
コインブラ大学-アルタとソフィアは、ポルトガル中部の古都コインブラにある歴史ある大学とその周辺地区を対象とする文化遺産である。1290年にディニス1世によって創設されたコインブラ大学は、ポルトガル最古の大学であり、ヨーロッパでも有数の伝統を持つ。大学構内のジョアニナ図書館は、バロック様式の美しい内装で知られ、見どころの一つとなっている。構成資産には旧市街のアルタ地区や、ソフィア通り周辺の歴代大学施設も含まれている。

マフラの王家の建物‐宮殿、バシリカ、修道院、セルク庭園、狩猟公園(タパダ) (2019年)
マフラの王家の建物群は、リスボン近郊のマフラにある18世紀の壮大な建築複合体で、ジョアン5世によって建設された。中心にはバロック様式の宮殿、修道院、バシリカがあり、王権と宗教の結びつきを象徴している。バシリカには6つのオルガンと92の鐘が備えられ、壮麗な音響空間を生み出している。敷地内には整然と設計されたセルク庭園と、王家の狩猟用に造られた広大な自然公園タパダも含まれ、当時の王族の暮らしと自然観を今に伝えている。

ブラガのボン・ジェズス・ド・モンテ聖域 (2019年)
ブラガのボン・ジェズス・ド・モンテ聖域は、ポルトガル北部の都市ブラガ郊外にある巡礼地で、美しいバロック様式の階段と教会で知られている。18世紀から整備が進められたこの聖域は、信仰の旅として「霊的な上昇」を象徴するように設計されており、幾何学的で優美なジグザグ階段が山の斜面に沿って連なっている。巡礼者は長い階段を登って教会に至ることで、苦行と祈りの意味を体感する仕組みとなっている。教会の内部や周囲の庭園も見どころが多く、宗教建築と自然が調和した精神的景観として高く評価されている。