ポルトガル料理
PORTUGUESE CUISINE
海と太陽が育てた、やさしい味。
ポルトガル料理は、その素朴で飾らない美味しさから、近年ますます世界的に注目を集めるようになってきました。特徴的なのは、豊かな自然がもたらす山海の幸を、極めてシンプルかつ素材本来の風味を生かす調理法で提供する点です。特に、オリーブオイル、ニンニク、タマネギ、パセリ、コリアンダー(coentros)といった香味野菜を巧みに使いながら、過度に味を加えず、素材の良さを引き出すという、日本人にも非常に馴染みやすい味わいが多いのが特徴です。
ポルトガルは、ヨーロッパで一人あたりの米の消費量が最も多い国でもあります。リゾットのように煮込むスタイルの「アローシュ(arroz)」料理が各地で見られ、魚介や鶏肉、内臓、香草と一緒に炊き込むなどバリエーションも豊富です。特に南部では、スープのようにさらりとした「アローシュ・デ・マリスコ(魚介入りの米料理)」がポピュラーです。
また、干しダラ(バカリャウ)をはじめ、イワシ、タコ、イカなど新鮮な魚介類が大西洋沿岸の町や村で日常的に食べられており、まさに「魚の国」と言っても過言ではありません。ポルトガルには「バカリャウのレシピは365通りある」と言われるほど、干しダラ料理が生活に根付いています。炭火焼きのイワシは夏の風物詩であり、タコのサラダやイカのグリルも観光客に人気の定番料理です。
ポルトガル料理の面白さは、それが日本の食文化にまで影響を与えた歴史を持つことにもあります。16世紀、ポルトガル人が種子島に漂着したことをきっかけに、南蛮貿易が始まりました。その際に伝わった料理の中に、衣をつけて揚げる「ペイシェ・フリット(揚げ魚)」があり、これが後に日本の天ぷらのルーツになったとされています。また、酢を使って魚や野菜を漬け込む調理法「エスカベッシュ」は、日本の南蛮漬けの原型とも言われています。つまり、日本の食卓に今も親しまれている味わいの中には、ポルトガル料理からの影響が静かに息づいているのです。
ポルトガル料理は豪華さや派手さよりも、家庭的で温かく、素材と伝統に寄り添った料理が多く、旅行者にとってもほっとする味わいです。レストランだけでなく、田舎の小さな食堂(タスカ)や家庭的な店にこそ、記憶に残る一皿に出会えることが多いでしょう。ぜひ、旅の中でその土地ならではの料理を味わい、食文化を通してポルトガルの暮らしに触れてみてください。